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<注意!!>
・暗い上に重い話です!苦手な方はスルーしちゃって下さい。

・「ep9 勇者になんてなれませんから」の続編です。ep9を見ていないと「??」になるかもです。
ep9 勇者になんてなれませんから はコチラ

・めっちゃ長いです・・・





introduction

季節は初夏。

その女は緑生い茂る丘の上で、まどろみの中にいた。

ふと殺気を感じ、とっさに身を起こす。
さきほど通った場所で戦闘が起こっているようだった。

一人は人間。
良く見えないが、全体的に白い。
服装も髪も肌も白い。

対するモンスターは、まだ子供のようだ。
白い人間に噛み付いているようだが、これなら人間が勝つだろう。

まあ、例え人間側が不利であっても、自分には関係無い。
自分ですら、いつかモンスターに食い殺される日が来るかもしれない。
その覚悟は出来ている。

女はまた寝転がり、まどろみの中へと身を投じた。









1
 
目を覚ますと、見慣れた天井が目に飛び込む。
寝付いたときは丘の上だった筈・・・。
意識が鮮明になるにつれ、先ほどの光景が夢であったことに気付く。

「またあの日の夢か・・・」

2年ほど前だろうか。
軍の演習の為、西に行ったときの夢だ。




女の名前はセルローニャ。
ファンブルグ近衛騎士団第三連隊の連隊長だ。
女であり、年もまだ若い彼女は騎士団でも異例の出世と言える。
当然、騎士団内では彼女のことを良く思わない者も多くいた。
要するに、嫉妬である。

小娘のくせに。
女であることを武器に出世したに違いない。
親の権威が無ければ何も出来ない未熟者。

陰口を叩くものは大体そんなであったが、実際のところ彼女は優秀である。
統率力、剣の腕、槍の腕、体術、戦略性。
どれをとっても常人離れしており、それは彼女の努力の賜物であった。


そんな彼女が上官に呼び出されたのは昨年末。
新たな任務は「王立飛び研究所」の監視であった。
そしてセルローニャは懐古にふける。


2


「研究所の監視?」

不思議そうにたずねる彼女に、上官は頷く。

「左様。やんごとなきご身分の方から、直接依頼が来たのだよ。
 しかも、ご丁寧に密書でな」

上官は一平卒から剣の腕で近衛騎士団団長まで上ってきた、初老の騎士だ。
髪から立派な顎髭、太い眉毛まで白くなっている歳ではあるが、健康的に日に焼けた肌、良く通る大きな声、強い意志の篭った鋭い眼光は、まだこの老人が現役の戦士であることを物語っている。
セルローニャは、そんな上官を尊敬していたが、今回の仕事の内容はこの上官の顔を曇らせる内容らしい。
王宮勤めもそこそこ長いセルローニャは、今回の依頼が貴族達の権力争い「ごっこ」の巻き添えであることを瞬時に悟った。
何故なら、その依頼こそがこの上官の最も忌み嫌う仕事である為だ。

「任務、お引き受け致します。
 私を選んだのは良い人選だと思いますよ。
 私には、あなたのように真っ直ぐな正義感などというものはありません」

特に表情を変えることなく言ってのけた彼女。
上官の表情はますます曇った。

「セル、お前は本当に優秀な騎士だ。
 真に猛き者は心の強さも兼ね備えるもの。
 ワシの心の強さが、お前の言う通り『正義感』だとしたなら・・・」

初老の紳士の眼光が鋭くなり、目前の女を見据える。

「お前の信念は一体何なのだ?」

まるで男性のような仕草で肩をすくめ、鼻を鳴らし彼女は言う。

「父親の名に恥じぬ程度の名声を得ることですよ」

「ただ、それだけなのか?」

「・・・ええ、それだけです」








--



気付いてしまったからって、それが何だと言うのか・・・。





今までだって血に染まった人生を送ってきたではないか。





自己否定なんて、心の弱い人間にやらせておけば良い。





自分を強く持たなくては、恩返しにならないではないか。





なんで私は





気付いてしまったことをこんなにも悔やんでいるのか・・・。










3

「やあやあグラ子さん!
 今日も重役出勤ご苦労さまです!」

背後から掛けられた声に振り向くセルローニャ。
そこには、予想通り銀髪に眼鏡にジャージ姿の所長がいた。

「うっせぇな・・・。
 ロクに仕事もねぇんだから、いつ出勤しても良いだろうが・・・」

「ふむ。合理性だけならそうなりますね・・・。
 しかし忘れないで下さい、我が研究所には成長期の子が二人もいるんですよ?
 それなりに示しをつけないことには、ですよね?」

「却下だ。育つように育つ」

「まあ、我々のようなダメな大人を見て、どう育つのかは僕も非常に興味がありますけどね!!」

「どっちなんだよ・・・お前は・・・」

この所長の名はBANX。
本名なのか通り名なのかは知らない。
セルローニャが監視任務を受けた『王立飛び研究所』の所長だ。
要するに、今回の任務はこの研究所での不祥事を上官に報告し、国王のメンツを潰すことだ。
元々国王が道楽半分で設立した組織であるため、研究所の不祥事は王の権威を落とす。

何故そんなことが必要かと言うと、真の目的は王位継承の権力争いにある。
現状、国王は第一王子に王位を継ぐつもりでいる。
それすなわち、第一王子に贔屓にされている連中が新議会に配属されるということだ。
議会とは、行政の最高機関である。
行政の提案は議会で行われ、国王の賛同をもってして実施される。
現状の議会は、漏れなく第一王子派だ。

だが、ここで国王及び第一王子を失脚させ、第二王子が新国王となったらどうであろう?
第二王子派は現在、議会の議員は一人も居ない。
つまり、議会の総入れ替えが起こる訳である。
これは、新しい国家が生まれるに等しいことである。
もはや、革命だ。
そのために躍起になっている第二王子派が図っている謀略の一つが、今回の自分の任務である。
もちろん、そんな謀略を計らずとも第一王子を暗殺してしまえば話は早いのだが、王族の暗殺は重罪中の重罪であり、明るみに出たなら、関わった者は勿論、その親族から親しい友人まで問答無用で打ち首となる。
あまりにリスクが大き過ぎるのだ。


「他の連中は?」

所長に尋ねると、彼は眼鏡を輝かせて回答した。

「ええ、実は新しい飛び研究を考えつきましてね!
 今はお嬢と一緒にセラルカに行ってますよ!」

呆れたもんだ。また子供2人で行かせたのか・・・。

「それこそ、俺の護衛の仕事が必要なんじゃないのか?」

「そこは飛びデータの収集も兼ねてますから!
 なに、セラルカなら以前にも行っているので大丈夫ですよ!」

大丈夫なものか・・・。
この年中脳春男が・・・。
いっそ、これを児童虐待の不祥事ってことにしてみようか?

思案に耽るセルローニャ。
お構いなしに所長は続ける。

「そうそうグラ子さん、姉上様からご伝言を預かってますよ?
 なんでも、お父上様が体調を崩されたとか何とか」

なんと、それは大変だ。
思索を中止し、所長の顔を睨む。

「それはいつの話だ?」

「今日の午前中ですよ。
 西病院から遣いの方が見えましてね」

「行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい。
 後ほど、私もご挨拶に・・・」

「来るな」

即座に言い捨てて、西病院へと早足で向かうセルローニャであった。








4

セルローニャは孤児である。

物心ついた頃、母親とは死別しており、父親は末期のアルコール中毒であった。
幼いセルローニャにとって親とは、暴力をふるってくる恐怖の対象でしかなく、食事もあまり与えてくれないので家にある食材を適当に調理し、飢えをしのいで生活していた。
勿論、料理の方法など知らないのだから、その味は酷いものだった。

8歳の時、父親が他界し
身寄りのない少女は軍の兵士養成施設へと移された。
戦闘の素質はかなりのものであったが、3日目にして脱走。
城下町で野宿生活を始める。

そんな少女を養子として家に迎え入れたのが、市街西に位置する病院の院長であった。
非常に温厚な人物で、極度の人間不信に陥っていた少女が打ち解けるのにも、さほどの時間は要さなかった。
大らかな院長の教育方針は放任主義。
既に子供も授かっていた(セルローニャの姉にあたる)が、その子は勝気な性格で放任された為、女子でありながら男言葉を話すほどの変わり者に育っていた。
セルローニャも、この姉と接している時間が長かった為、自然と男言葉を話すようになっていた。
それでも院長は、そのことを咎めたりはしなかった。
ただし、子供が人の道に外れることをした場合は鬼神の如く叱りつけた。
「育つように育つ」
これが院長の育児に対する口癖であった。

そして現在に至る。
セルローニャは、この院長に対しては非常に感謝している。
自分の存在意義と言っても過言ではないだろう。
親の顔に泥を塗るようなことだけはしたくない。
その為に努力し、現在の地位を勝ち取った。
他人からの評価は、普通は自己に向けられるのが快感なものだが、セルローニャの場合は父親に向けられていれば、それだけで満足であった。

その院長が体調を崩したのあらば、これは一大事だ。
足早に西病院へと歩みを進める。

「ただいま!」
建物に入るなりそう叫び、待合席の患者達の注目を集める。
奥から金髪の美しい看護師が、柔らかな笑みを浮かべながら近寄ってきた。

「お帰りなさい、セル。
あなた、いつも言っていますけど、ここは病院なのよ?
大きな声は控えて頂戴」

姉である。
ひどく丁寧な女口調であるが、これは患者の前である為だ。
この姉にとっては患者は「お客様」であり、商売相手として見ているそうなのである。
間違ってはいないのかもしれないが、なんとも不謹慎な話だ。

「姉貴、父上は?」

「自室で休まれてますわ。
ご挨拶にいってらっしゃい」

セルローニャは頷き、父の部屋へと向かった。

この年齢になっても、許可無い限りは絶対に立ち入らない父の部屋。
その重厚な扉をゆっくり2回ノックし、「セルです」と告げると中から
「入りなさい」
と張りのある声がした。

「失礼します」
入室したセルローニャが見た父の姿は、いつも通り威厳のある姿ではあったが、やはり顔色が優れない。
ベッドの上で上体を起こし、こちらを真っ直ぐ見つめる父。

「父上、体調はいかがでしょうか?どうぞ、楽にして下さい」

「なに、心配には及ばないよ、セル。ちょっとした過労だ。暫く休養をとれば問題ないさ」

朗らかに笑う父。
良かった、とりあえず大きな病では無かったようだ。

「スミレとフジワラにも頑張ってもらっているからな。今は療養に専念させてもらおう」

「患者はフジワラが診ているのですか?」

フジワラとスミレは父の助手である。
まだ歳も若く、経験では父の足元にも及ばない筈だ。

「まだ危なっかしいところはあるがね。これも良い経験になるさ」

放任主義のこの人らしい台詞だと、セルローニャは感じた。
その考えには賛同できるものの、やはりこの父抜きでは
病院運営の人手は足りていないのではないだろうか?

「では、俺も手伝います」

「何を言うか。お前にはお勤めがあるだろうに」

「今の任務はただの監視です。丸一日監視する必要もありません」

「しかし、お前・・・」

「俺が一度決めたことは曲げない性格だという事は、父上も良くご存知ですよね?では、失礼します」

そのまま踵を返し、部屋を出て行くセルローニャ。
父は、娘の退出していった扉に向かい、独り言をこぼした。

「男言葉で看護師をするつもりかね・・・」







5

「全く、勝手なものですよ」

夕日の差すファンブルグ市内を歩きながら、所長は愚痴をこぼす。
聞き手は子供二人であるが・・・。

「まあ、今に始まったことじゃないじゃないですか」

色黒の子供は、この所長をなだめる。
どちらが子供なのか分からなくなる図式である。

「しかしですね、ぽんくす君。いきなり帰ってくるなり『有給を消化する』ですよ?
こちらの話なんて聞かないで、そのまま出て行っちゃうんですよ?!
用心棒が居ない間に、研究所が暴徒に襲われたらどうするんですか?
研究所だって経営は苦しいのに、勝手に有給なんて・・・。
この有事の世の中で、そんなに福利厚生が整った施設なんてあるものですか!」

「暴徒って・・・。ウチを襲って何のメリットがあるんですか・・・」

「♪」


ba13956b_1267875194218.jpg





























もう一人の子供は、何が楽しいのか所長と繋いだ手をブンブンと振り回しながら歩いている。
獣のように尖った耳が特徴的な少女である。
彼女の細い目が、道端の何かに反応した。
繋いだ手を放し、駆け寄る少女

「お嬢?どうかしたんですか?」

所長が後を追うと、お嬢と呼ばれた少女は道端にうずくまり、何かを拾い上げた。

「あ、小鳥ですね。逃げないなんて珍しいなぁ」

色黒の少年が不思議そうに見つめるその小鳥は、どうやら翼を傷めているようであった。
逃げないのではなく、逃げることが出来なかったのだ。

「お嬢?拾い食いはいけませんよ?」

「・・・」

悲しそうな、すがるような糸目で所長を見上げる少女。

「あ、それは『助けたい』って顔ですねぇ・・・。
残念ながら、私は回復系のスキルは持ってないんですよ」

「それ以外のスキルもね・・・」

すかさず突っ込む少年。
実に的確である。

「私には研究のスキルさえあれば事足ります。
お嬢?その鳥を飼うことは許可しますが、怪我を治癒させたいなら、その方法は自分で探しなさい。
あと、見たところその鳥の様態は重態です。
連れ帰ったところで、すぐ別れの時が来ることも覚悟した上で関わりなさい」

優しく諭す響きではあるものの、厳しく言ってのけた所長に対し、少女は力強く頷いた。










6

ファンブルグ西病院に風変わりな看護師が登場した。

「へい、らっしゃい」

威勢よく患者を出迎えるその人は、白衣なれどサングラスをかけている。
ナースキャップを着用しているが、背中には身の丈以上もある大剣を背負っている。
新米医師フジワラは、ひきつった笑顔で話しかける。

「セルお嬢様・・・」

「おう、フジワラ。午前の外来はもう一段落ついたのか?」

「はい、お陰様で・・・。今日の患者さんは、みなさん同じ話題で持ちきりでしたよ・・・」

「んん?何か大きなニュースあったか?」

頭を捻るセルローニャ。背中の大剣がガチャリと重々しい音を立てる。

「当院の不良看護師についてですね、色々と・・・」

「あぁ、それな。まぁ気にすんな」

フジワラは、今日何度目かも分からなくなった重いため息をつき、意を決して懇願した。

「お嬢様、せめて大剣だけでも、どうにか外して頂けませんか!」

「近衛騎士が剣を手放せるかボケ」

散々だった。
うなだれる若き医師を尻目に、セルローニャは見覚えのある姿を捉える。

「あれ?お嬢・・・?」

入り口近くでまごついているその姿は、研究所の獣人少女だった。
初夏の丘の光景が脳裏をよぎり、すぐさまそれを振り払う。

獣人の少女も、セルローニャに気付きパタパタと走り寄る。
その手には、何かが大事そうに抱えられていた。
セルローニャは平静を装い、対応した。

「お~、やっぱりお嬢か。
なんだ、差し入れでも持ってきてくれたのか?」

少女はおもむろに抱えてきた小鳥を差し出す。

「あ~、すまないなお嬢。俺は鳥とか生で食うことは出来ないのよ」

必死に首を振る少女。
どうやら、意思の疎通に失敗したようだ。
全く、言葉が話せないというのは厄介なものだ。

「ああ、ひょっとして治療?」

「♪」

頷く少女。今度は通じたらしい。

なるほど、治療か。
怪我の治療は医師の管轄になるのだが、中でも体の構造が人とは違うペットの治療は難しく、さらに小型動物の治療となると、かなりの熟練が必要である。
通常時であれば院長が診ていたのだが、今は経験浅いフジワラしか居ない。
医師としての腕が無いわけではないが、失敗しないとは限らない。
この少女の悲しむ顔は、もう見たくない。

再び浮かぶ初夏の光景。

頭を振りそれを振り払ったセルローニャは、少女から小鳥を預かった。

「分かった。コイツの治療はやっておくから安心しな。だけどな、ちょっと時間はかかると思うぞ?」

「♪」

獣人の少女は、顔を輝かせて頷いた。






7


一日の仕事を終え、セルローニャは帰途へとついた。
実家の仕事の手伝いはしているものの、寝泊りは今まで通り研究所で行っている。
研究所監視の任を解かれているわけではないので、研究所メンバーから距離を置くわけにもいかない。

(さて、今日の晩飯は何かな・・・)

気持ちは晩餐に向きつつも、神経は先ほどからついてくる気配に向いていた。
ご丁寧に足音を消してセルローニャの20メートルほど後を付いてきている。
武術を嗜んでいる証拠だ。間違っても、商人や農民の類ではない。

(やれやれ・・・)

軍に身を置き、荒事に明け暮れてきたセルローニャにとっては、尾行されるくらいは特に珍しいことではない。
晩飯前の軽い運動でもするかという気持ちで、これの相手をすることにする。
曲がり角を曲がり、そこで体の向きを反転させ、後ろ向きに歩く。
神経は今曲がった角に向ける。

(3・・2・・1・・今かな?)

追っ手が角を曲がるタイミングにあわせ、踏み込みの音を立てずに高く跳躍した。

驚いたのは追っ手のほうである。
今まで全く無防備に歩いてた追跡対象が、曲がり角を曲がった先で姿も足音も消えていたのである。
気付かれた!と咄嗟に周囲を見回し、ハッとして上を見たときには追跡対象が目と鼻の先だった。

(上に気付いたのは良し。だが遅すぎる!)

シュンという、とても身の丈ほどもある剣を一閃させたとは思えない小さな音を残し、追跡者の顔脇を大剣がかすめた。

その場にへたりこむ追っ手。かすれた声をなんとか搾り出す。

「お・・・お見事!」

「どこの手の者だ?」

「へ?」

「誰の指示で動いている?まさか、独断か?」

追っ手は何故か悲しそうな表情。

「え?・・・いや、覚えてない?」

自分の顔を指差す追っ手。
ふむ。どこにでも居そうなマヌケ面だ。
背は高くなく、やや太っていて俊敏性にも欠けそうな印象。
見覚えがあると言われれば、あるような気もするが・・・。

「軍士官学校で同期だったコリンズだよ!」

「コリンズ?」

言われてみれば、そんな名前のヤツも居たかもしれない。
しかし、そんなどうでも良いことは覚えてない。
士官学校に通った頃にしたって、父親への面目の為に学内順位は気にしていたが、生徒のことには全く興味が向いていなかったのだ、無理もない。

「で?そのホヒンズが何の用だ?」

「コリンズだ!勝手に弱そうな名前で呼ぶな!」

いちいち顔を真っ赤にして怒る。
直情的だな。指揮官には向かないタイプだ。

「で、お前の階級は?ボビンズ」

警戒するほどの相手でもないと悟り、剣を納めつつセルローニャが問う。

「中隊長・・・であります・・・」

「呆れたものだな、上官の尾行をしていたのかオマエは?」

「尾行だなんて、滅相も無い・・・。
私は連隊長殿に挨拶に伺っただけですよ?」

この男は挨拶の都度、尾行をするのか。
全く、浅知恵な者とマトモに会話をするのは難しいものだ。

「はいはい、挨拶ね。
こんばんは、月のキレイな晩ですね。ではごきげんよう」

そのまま歩いていこうとするセルローニャ。

「このコリンズめは、あなた同様、あの機関の監視業務に就くことになりました!」

コリンズの意外な一言に、セルローニャの足が止まった。
だが、振り向きはしない。
それに構わず、続けるコリンズ。

「あなたの手際の悪さに愛想を尽かしたんでしょうなぁ、団長経由でなく直接私にと依頼が来たのですよ!」

「ふうん?」

「ここで成果を上げれば、私を連隊長として団長に推薦してくれるそうなんですよ!
2階級特進ですよ?
丁度、簡単な任務にいつまでも成果を上げることが出来ない連隊長殿がおりますのでね!
引きずり下ろしてくれますよ!」

「ん、まあ頑張れ」

それだけ言い残し、セルローニャは帰途を急ぐことにした。
所長にこの事を伝える為ではない。腹が減っていた為だった。





--





初夏の丘陵地。





さわやかな風に運ばれてきた、モンスターの匂い。





背中に背負った相棒を構え、呼吸を整える。





相棒のずっしりした重みが心地よい。





対峙するは2匹の獣人。





銀色の毛並みの美しい大物と、やや小型の茶色の毛並み。





驚いたことに、銀色の方は人語を操る。





稀に喋るモンスターがいると聞いてはいたが、実際に見るのは初めてだ。





まあ、斬ってしまえばどれも同じか・・・。





相棒を握る手に力をこめる。





「お前・・・人間は・・・・というのか?」





銀色の獣人が何か喋っている。





耳は傾けない。





ここは戦場だ。敵の戯言を拝聴する作法は無い。





いつも通りに斬り、なぎ払い、刺す。





死骸を作り上げる。





それだけだ。








8

「お前なぁ・・・。毎日毎日飽きもせず・・・。これ一体何本目だぁ?」

ため息交じりにセルローニャは悪態をついた。
その目の先には、獣人の少女が差し出すカモミールの花がある。
獣人の少女は、毎日小鳥の見舞いに西病院を訪れ、その都度セルローニャにカモミールの花を贈っていた。
病院受付の机上の花瓶は、もうカモミールの花でいっぱいになっていた。

「♪」

「♪、じゃねぇよホント・・・」

小鳥は順調に回復していた。
セルローニャは結局のところ、小鳥の治療は父に手伝ってもらった。
父が様態を見、治療はセルローニャが行う。
もちろん、セルローニャでは難しい処置は行えない。
時間はかかるが、小鳥の治癒力を補助する程度の処置を行ったのだ。
完治に時間こそかかるものの、日に日に元気になってゆく小鳥の姿を、獣人の少女が喜ばない筈もなかった。

そして、今日も獣人の少女はカモミールの花を差し出している訳である。
増えっぱなしのカモミールも困るのだが、実際セルローニャは少女の純粋な感謝の気持ちに困惑していた。
自分は、こんなに感謝されるような権利は無いというのに・・・。





脳裏を過ぎるのは、あの初夏の丘の風景。





作り上げた、2体の獣人の死体。





疲れた身体を休める為、少し離れた場所で仮眠を取る。





暫くして





殺気で目覚めると





さっきの獣人との戦闘場所で





所長と、お嬢が戦闘をしている









「なあ、お嬢・・・」

セルローニャは、カモミールの花を差し出す少女につぶやいた。

「?」

「所長と出会ったときのこと、覚えてるか?」

「・・・」

心なしか、獣人の少女の表情が曇ったようにも思える。
この種は表情を持たない為、気のせいかもしれないが・・・。

「あの丘な。あの時、俺も近くに居たんだよ。
ちょっと戦闘で疲れててな。離れた場所で寝てた。
お前達の戦闘も、少し見てたんだ」

「・・・」

野生の目が、セルローニャをじっと見つめている。
セルローニャは、まともに相手の目を見ることもできない。
その身体も小さく震えてさえいる。

「疲れていたんだよ。
お前達が戦ってた場所でさ、俺も戦闘してたんだ。
相手はワーキャット2匹だった・・・」

「・・・」

「お嬢・・・」




深く息を吸い込み、吐き出すように

「お前の両親を殺したのは・・・









俺だ」















暫くの沈黙





ゆっくりと





獣人の少女の頬に涙が伝った
















6f36266c.jpg

































To be continued~

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ちょっと飛び情報
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またもご無沙汰しております。
更新途絶えて早一年といったところですが、
未だに見に来てくれている方もいることに嬉しいやら申し訳ないやらの昨今です。

フ○ウさん。
フェスタでのお声掛け有難うございます!
放置しており、リアクションできませんでした・・・。
ご期待に添えるかは分かりませんが、
何よりの励みになるお言葉、しかと受け取りました!

ねぎらじ!
negiradi_top.jpg






いつでも放送事故!
まるまつさんアルカネットさん
僕とでお送りしていますラジオ
「ねぎらじ!」配信中!
キャラ紹介
20100221_1711320.jpg






名前:BANX
職業:ファンブルグニート


冒険に出ないメインキャラ。
王立飛び研究所所長。
飛びの研究をしつつ、常に新しいことを企画してます。
一応メインキャラの筈です。
イラストはうさ耳キュートさん画です!
ステキな絵を有難うございます!
クリックで原寸大表示されます♪

8954666e.jpg






名前:ぽんくす
職業:飛び芸人

LV1の超飛び体質。
研究所の仕事内容はもちろん飛ばされ役。
そしてつっこみ担当。
実家はファンブルグにあるが、研究所で生活している。
絵は光著さんに描いて頂きました!
クリックで全部表示できます。

04b5ea11.jpg






名前:記録嬢
職業:記録係

ぽんくすの飛距離計測係。
知能は高いので言葉を理解できるが声帯が無いので喋ることができない。
BANXに拾われたワーキャットの孤児。
イラストはアルカネットさんに以前描いて頂いたものです♪

93d404ee.jpg






名前:試練の回廊のヌシ
職業:試練の回廊の主?

試練の回廊(新キャラ作成エリア)に生息。
お金を1,000,000G貯め、名刺をMAXまで貯めないと外に出ることが出来ない。
本気で達成する気はありません。
絵はうさ耳キュートさんに描いて頂きました!
なんという神々しさ・・・。管理人が描いたモノとは何もかもが違いますね!
クリックで原寸大表示できます♪

そして、回廊といえばこの方を忘れてはいけません!!
35b2d7b3.jpg




(↑クリックで全て表示します)
ニコルさんが描いてくれました!
目元がめちゃめちゃラブリーですよ♪

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名前:サングラ子
職業:用心棒

ファーレン軍から派遣された
監査官。
口が悪い。
ぽんくす同様、実家はファンブルグにあるが研究所で生活している。
研究所唯一の戦闘職。
絵は光著さんが誕生日プレゼントに描いてくれました!
超感激です!!
クリックで全部表示できます。

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長いモノには巻かれないとですよね♪
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